オリンピック強化選手選考を兼ねたコンテスト



会場は都内のビッグコンペティションではおなじみのムラサキパーク東京



出場ライダーは落ち着きを見せながらも、皆どことなく緊張感が漂う



2月23・24日の2日間にわたり、今シーズンのAJSA開幕戦、2019 JAPAN OPEN STREET CONTESTがJRSF(日本ローラースポーツ連盟)との共催でムラサキパーク東京にて開催された。まずはこのコンテストの持つ意味と初日に行われたレディースの模様を振り返っていきたい。
AJSAのコンテストと言えば、毎年4月に開幕、ここ数年はAXIS SKATEPARKでのアドバンスカップがお決まりのパターンであったが、今年は2月末に前倒し、さらに会場も毎年最終戦の会場だったムラサキパークに変更と、過去にないスケジュールとなった。
それはオリンピックを翌年に控え、いよいよ本格的なライダー選考の始まったことを意味しているに他ならない。今大会も強化選手選出を兼ねたコンテストとなっており、5月に開催される第2戦との合計ポイントで強化選手が決定される。これはライダーにとっては単純にチャレンジするチャンスが広がっただけでなく、会場も別になるため、設置セクションにおける得意不得意の影響やコンディションの問題に関してもより平等になったと言える。強化選手に選ばれればオリンピック本番に出場するためのポイントが与えられる国際コンテストに出場できるので、また一歩オリンピックに近づくことができる。今回はそのスタートを切るコンテストなった。



会場には得点がリアルタイムで表示されるTVモニターを設置


そのため、ルールにおいても昨年から変更が加えられた。予選はパーク内を自由に滑走してトリックを披露する”ラン”を2本行い、点数の高い方を採用というのは昨年と変わらないが、時間は45秒に短縮。そして決勝では同じく45秒間の2本のランに加え、5本の”ベストトリック”も行い、計7本のうち得点が高い4本の合計得点で争う形式に変更された。これは現世界最高峰のコンテスト、SLS(Street League Skateboarding)と同様の採点法式で、オリンピック本番もこの方式で行われるからだ。
そしてこの方式になったことで俄然面白くなったのが、各ライダーの駆け引き。昨年まではランが終了してから得点が出るまで若干のタイムラグがあったため、最後に発表されるまで優勝はわからなかったが、今回からはリアルタイムで得点と順位が表示されるようになったため、ライダーは自分が何点取れば順位が変わるのか、考えながらトリックを重ねていくようになる。そうなった場合、点差が大きければ当然無難なトリックをやっても勝てない。一か八かのビッグトリックにチャレンジしにいくから、メイクした時の会場の盛り上がりも桁違い。観ているも面白いし、ライダーもアドレナリン全開になること必至。
そのような状況下で今年のAJSAは幕を開けた。



このQRコードを読み込めば手持ちのスマホからもリアルタイムで得点を確認することができる




予選トップ通過は昨年の覇者・伊佐風椰



フロントサイドリップスライド





レディースのエントリーは合計20名。人数だけ見ると少ないと思うかもしれないが、男社会に混じりわずか数人だけだった時代もあっただけに、その頃から比べるとシーンの成長を感じ取れる。もちろんそれはライディングにも如実に現れており、トップ通過となった昨年の全日本覇者の伊佐風椰はレールでF/SリップスライドやB/Sリップスライド、バンクから跳び上がりのB/Sヒールフリップやダブルフリップなどをメイク。昨年と比べても安定感とスピードは確実にレベルアップ。国際舞台で様々な経験を積んだことによる成長が見て取れた。そして2位通過は今年1月のSLSを制し、すでに強化選手入りが確定している西村碧莉の姉である西村詞音、3位は同じく今年1月のSLSに出場した織田夢海、4位にX-Games出場歴を持つ藤沢虹々可と概ね順当な勝ち上がりを見せた予選となった。




まさかのアクシンデントの末に優勝したのは……


続いては2本のランに加え5本のベストトリックが行われた決勝。ここからは8位から順に振り返っていく。



バンクから飛び上がりのバックサイドヒールフリップ

8位はまさかのアクシンデントに見舞われ、決勝のベストトリックの棄権することになってしまった伊佐風椰。右側頭部を強打し、外傷性脳出血との診断結果が出たが命に別条はなく、現在は退院している。まだしばらくは安静が必要とのことだが、必ずやこの舞台に舞い戻ってくれることだろう。





キックフリップからのバンクイン



手前のクォーターからのトランスファーB/S180
7位は山形県のみはらしの丘スケートパークからエントリーの伊藤美優。基本のトリックを確実に抑えた堅実な滑りで入賞を果たした。





バックサイドボードスライド



フロントサイド180

6位は岡山県からエントリーの兼本鈴菜。以前からコンテストには度々エントリーしていた彼女は、前十字靭帯と半月板の損傷からも完全に復活。今回もそつのない滑りを披露してくれた。





フロントサイドスミスグラインド



フロントサイドボードスライド

5位には二十歳を迎え、出場ライダーの中では最年長となった西村詞音。幼少期からコンテストにで続けている彼女も2017年12月の左膝前十字靭帯の再再建手術からの復活とあって、久しぶりのコンテスト出場となった。それでもレールでもパーフェクトなF/Sスミスグラインドなど、魅せるところはきっちりと魅せる滑りで5位に入賞。次回にも期待が持てる内容だった。





フロントサイドスミスグラインド



フロントサイドリップスライド

4位はここ数年でメキメキと実力をつけてきた西矢椛。レールでのF/SリップスライドだけでなくB/SボードスライドからのスイッチF/S50-50グラインドといった掛け替えトリックも披露し、4位に食い込んだ。





フロントサイド5-0グラインド



キックフリップからのバンクイン



F/S50-50グラインド

3位には伊佐風椰や西村碧莉らと共に1月のSLSに出場した織田夢海。彼女の滑りの魅力は小学校6年生とは思えない滑りの完成度の高さ。回し・跳び・擦りのトリックチョイスもさることながら小柄な体格にもかかわらずスピードも十分にあり、総合的なスキルの高さを今回も見せてくれた。まだまだ成長が期待出来る逸材だ。





フロントサイドブラントスライド



フロントサイドクルックドグラインドからのバンクイン



バックサイドクルックドグラインド

2位には日本最高峰のスケートパーク、富山のNIXSスポーツアカデミーが生んだ傑作、中山楓奈。以前から全国規模のコンテストには出場していた彼女は、ランこそ振るわなかったもののベストトリックで逆転の2位。その魅力はレールトリックのレパートリーの豊富さ。レールでF/SブラントからF/Sクルックドグラインドと繋ぐラインは完全に世界レベル。さらに女子ではまだまだメイクできるライダーが少ない回しからのレールトリックも持ち合わせており、今回も得意のヒールフリップからF/Sボードスライドなどをメイク。見事に2位に輝いた。





フロントサイドボードスライド



キックフリップ



フロントサイドスミスグラインド180アウト

そして優勝に輝いたのは藤沢虹々可。彼女に関して言うのであれば、その魅力は圧倒的なスピードとダイナミックなライディングだろう。果敢にセクションに突っ込む”攻め”のライディングは女子レベルを超えており、男子顔負け。完成されたされたスタイルで見事に栄冠を勝ち取った。

そして今回の優勝の裏側に隠されたストーリーを一つ。実は彼女と今回頭部を強打し途中棄権となった伊佐風椰は同じ橋本のスケートパークをホームとする同世代の仲間。普段から一緒に滑る親友が朦朧とした状態で搬送された姿を見た時は、正直もう無理だと精神にかなり動揺したとのこと。そのショックを振り切っての初優勝だっただけにその喜びもひとしおだろう。
彼女には改めて祝福の言葉を贈りたい。




見事に優勝を果たした藤沢虹々可





今回表彰台に上がった3名。左から中山楓奈、藤沢虹々可、織田夢海。




オリンピック競技に決定してからは、入賞者がこのように囲み取材を受ける光景は当たり前となった






Photo & Text By 吉田佳央 (yoshioyoshida.net