プロ昇格権を争う”スケートボードの甲子園”
会場となった東静岡アート&スポーツヒロバ
10月の27・28日にかけ、翌年のAJSAプロ昇格権をかけた全日本アマチュア選手権が静岡県の東静岡アート&スポーツヒロバにて開催された。
この全日本アマチュア選手権だが、誰でも出場できるわけではなく、年間を通して3戦行われている全国各地域の地区サーキットや、公認ショップの主催コンテストを勝ち抜いた上位15名、各地域の選手権大会の上位5名しか出場資格を得ることができない、いわばアマチュアスケーターの一年の総決算とも言うべきコンテストとなっている。
しかも決勝に進出した8名は翌年のプロ昇格権利を獲得できるとあって、出場ライダーの熱気と意気込みはプロ戦以上、一度プロに昇格してしまえばアマ戦には2度と出ることができないし、逆にプロ昇格権を逃せば来年もまた地区大会からやり直しと、毎年悲喜交々のドラマを生んできた、スケートボード版甲子園と言うべき中身となっている。さらに全日本レディース選手権や35歳以上に出場資格のあるマスターズクラス、小学校高学年によるジュニアクラス、低学年のキッズクラスと、年齢性別問わず誰もがコンテストを楽しめるようになっていることもこのコンテストの大きな特徴だ。
今回は計73名がエントリー
それではコンテストの方に目を移していこう。今回の総エントリー数は73名、今年は去年までは開催がなかった北海道と中四国地域も地区予選に加わったことから、正真正銘の全国選手権と言える陣容が揃った。
ジャッジ陣も九州沖縄地区の清水ジャッジが欠席となってしまったが、東北から寒河江ジャッジ、関西から塩谷ジャッジ、中部から山西ジャッジ、関東から富田ジャッジと秋山ジャッジが集まり、地域バランスの良い構成となった。
そしてMC陣はおなじみの本間氏と地元静岡からバンビ氏の2名でコンテストはスタート。
ヘッドジャッジを務めた富田氏
左から塩谷ジャッジ、寒河江ジャッジ、富田ジャッジ、秋山ジャッジ、山西ジャッジ
長丁場のMCは本間氏とバンビ氏の2人体制
予選は1分間の2トライ。各地域予選の通過順位の下位から始まり、徐々に上位通過者のランになり最終ヒートは予選トップ通過のライダーとなる。こう言うと実力あるライダーは皆後半に出てくると思うかもしれないが、決してそんなことはない。地区予選は年間を通して3戦行うサーキット戦で多くを占めているため、すべて出た者の順位は当然上位となる。逆にケガなどの諸事情ですべてに参加が叶わなかったライダーは、おのずと通過順位が低くなってしまうというわけだ。
そんな状況であったため、第一ヒートの7番目の滑走となった浦野建隼が落ち着いたライディングで4位通過となるなど、各ヒートごと見応えのある戦いが続いた。
第一ヒートから淡々とテクニカルトリックをこなした浦野建隼のB/S180ノーズピック
年々盛り上がりを増す各クラス
ではここで決勝進出&プロ昇格者の前にレディース、マスターズ、キッズ、ジュニアの優勝者の顔ぶれを見てみよう。まずレディース選手権では、男子に混じり中部地区サーキットを8位で通過していた織田夢海が優勝候補の筆頭かと思われていたが、所々で狙っていたトリックを抑えきれず無念の2位。変わって優勝を果たしたのは赤間凛音。トランジションを中心にF/Sノーズブラントスライドなど高難度のトリックをメイクしたことが勝因となった。
続いてイイ歳したオヤジスケーターたちによるマスターズ。もうこのクラスはトリックの難易度云々よりも、熟練のスタイルやファンスケートの姿勢が見ている者を楽しませてくれるお祭り的な要素。今後このクラスの参加者が増えていけば、日本のスケートカルチャーのさらなる発展と底上げにつながるだろう。結果は昨年の覇者の本木クレビソンと、韓国でHEAPS SKATEBOARDSを運営するシン・ジョンヒョクを抑え、アールでのフィーブルフェイキーやバンクtoバンクでノーリーハードフリップをメイクした山附直也が優勝するという結果となった。
そしてキッズとジュニアクラスは、上位と下位でスキルの差はあれど、トップははっきり言ってアマ戦に出ても上位に入賞できるであろうレベルのライダーばかり。キッズを制した薮下桃平は数年後にはプロに上がってもおかしくない逸材だ。そしてジュニアクラスを制した池田大暉に関してはもはや説明不要だろう。昨年もプロ昇格権を獲得しながらもあえて昇格しなかった彼は、ある意味優勝は至上命題とも言える状況で立派に結果を残した。
レディース選手権を制した赤間凛音のF/Sノーズブラントスライド
キッズクラスを制した薮下桃平のB/Sビッグスピン
マスターズクラスを制した山附直也のノーリーハードフリップ
ジュニアクラスの日本一。池田大暉のB/S270ボードスライド
歓喜に沸いたプロ昇格と激戦のTOP3
ではメインイベントのプロ昇格権を一生に一度のアマチュア年間チャンピオンを懸けた戦いに移っていこう。まず先にプロ昇格を懸けた戦いから。この結果に関しては概ね順当ではなかろうか。
8位で決勝へ進出した三谷小虎と9位で惜しくも準決勝敗退となった神出柚煕とのポイント差は14ポイントと開きがあったため、異論をが挟むものはいないだろう。プロ昇格が決まった瞬間のライダー達の喜びを爆発させた表情と、両親が感極まって涙ぐむ姿からはこの一年の歩みと苦労が垣間見える。
プロ昇格決定に思わず涙ぐむ選手の保護者さん達
プロへの昇格が決まり喜びを爆発させるライダー陣
続いての優勝争いは史上稀に見る大混戦となった。なんと上位3名は全て1点差。しかも上位3名はスタイルもバラバラでジャッジでも意見が分かれるほどだった。これはコンテスト前に富田ジャッジの話にもあったことだが、点数はあくまで順位をつけるためのものであって、優劣を決定するものではないということ。そのことを改めて感じさせてくれるほど、暑く白熱した戦いとなったことは前置きしておきたい。それと同時にオリンピックが近づくにつれてジャッジシステムも今後さらに明確化していくことだろう。
3位には予選・準決勝ともトップ通過しながら前日の予選で負傷しながらも出場してノーミスのランを披露した鎧碧斗。トランジショントリックにワンフットやダブルフットを織り交ぜた独創性あふれるルーティーンワークは唯一無二。決勝もパーフェクトな滑りを見せながらわずか2点の差に泣く結果となった。
2位にはバンクからの跳び乗りB/Sビッグスピンを始め偏りのないスムーズなライディングを披露した山附明夢。なんと、彼はマスターズクラスで優勝した山附直也の息子とのことで、親子での表彰台も史上初というオマケ付きとなった。
そして1位には大柄な体格を活かしたダイナミックなライディングで、ハンドレールでB/SテールスライドやB/Sビッグスピン F/Sボードスライド、ダウンレールではスイッチ270 F/Sボードスライドなどをメイクした梅尾周生が輝いた。
今年も全日本のアマチュア選手権は、多少の雨はあったものの天候にも恵まれ、多くの笑いと涙、そして感動を生んだコンテストとなった。近年のアマ戦の特徴として、プロ昇格権を得た者は2〜3年にはプロ戦でも表彰台を争うレベルになっていることも多い。
今年プロ昇格権を得たものの来年のプロサーキットでの活躍に期待したい。
8位は準決勝4位通過の芝崎太陽。特大のF/Sインディートランスファー
7位には準決勝も同じく7位通過だった長井太雅。キックフリップ F/Sボードスライド
準決勝5位通過の飯田葉澄は6位。彼の十八番トリックの応用。ワンフット B/Sリップスライド
5位はジュニアクラスで池田大暉と優勝を争った三谷小虎。彼の身長からしたらかなりの高さ、
バンクからの乗り上がりKグラインド
4位には昨年の5位からステップアップを果たした池田大暉。
トリックは少ないながらもスピードと完成度は文句無しのトレフリップ
予選・準決勝ともにトップ通過だったが、決勝では惜しくも3位となった鎧碧斗。
ワンフットノーズグラブブラントのF/S180アウト
2位となった山附明夢の余裕あるF/Sフィーブルグラインドのトランスファー
大逆転で優勝を飾った梅尾周生。ハンドレールでの余裕あるB/Sテールスライド
キッズクラスのTOP5
ジュニアクラスのTOP5
マスターズクラスのTOP5
レディースクラスのTOP5
来年のプロ昇格権を得た決勝進出者の顔ぶれ
Photo & Text / Yoshio Yoshida(http://yoshioyoshida.net)